大津地方裁判所 平成8年(行ウ)6号 判決 1998年9月21日
原告
浅井秀明
外三名
右原告ら訴訟代理人弁護士
折田泰宏
同
中村広明
同
牧野聡
同
新谷正敏
被告
稲葉稔
被告
井ノ口善夫
右被告ら補助参加人
滋賀県
右代表者知事
稲葉稔
右被告ら及び補助参加人訴訟代理人弁護士
肱岡勇夫
主文
一 原告らの請求のうち別表1記載の各支出にかかる訴えを却下する。
二 被告井ノ口善夫は、滋賀県に対し、金一〇五万九八八八円及びこれに対する平成八年七月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告稲葉稔に対する請求を棄却する。
四 訴訟費用中、原告らと被告井ノ口善夫との間に生じた分はこれを一〇分し、その四を原告らの負担とし、その余を同被告の負担とし、原告らと被告稲葉稔との間に生じた分は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告らは、滋賀県に対し、連帯して、一八五万四一〇五円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日(被告稲葉稔については平成八年六月二一日、被告井ノ口善夫については同年七月一四日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行宣言を求める。
第二 事案の概要
一 本件は、「滋賀県東京事務所(以下「東京事務所」という。)の職員らが、平成六年度食糧費から、中央省庁職員その他関係機関等との連絡調整に要する経費として、平成六年六月七日から平成七年四月二五日までの間に合計一八五万四一〇五円を支出した(以下「本件各支出」という。)ことは、社会通念上儀礼の範囲を逸脱して違法であり、右支出によって同額の損害を滋賀県に与えた。」旨主張する原告らが、当時、右支出の命令権限を有していた滋賀県知事被告稲葉稔(以下「被告稲葉」という。)及び東京事務所所長被告井ノ口善夫(以下「被告井ノ口」という。)に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、滋賀県に代位して、右損害とこれに対する遅延損害金の賠償を求めた事案である。
二 当事者間に争いのない事実
1(一) 原告らは、滋賀県の住民である。
(二) 本件各支出当時、被告稲葉は滋賀県知事の職にあり、被告井ノ口は東京事務所所長の職にあった。
2 滋賀県における予算執行権限を本来的に有しているのはその長たる知事であるが、東京事務所における食糧費支出に関しては、滋賀県事務決裁規程(昭和五五年滋賀県訓令第一号)により、同所長が専決権者と定められている。
3 東京事務所における関係機関接遇に伴う食糧費の支出は、毎年度当初に年間執行伺いをする方法(滋賀県財務規則<昭和五一年滋賀県規則第五六号>三七条三項)が採られており、個々の接遇のための経費を支出する際は、支出命令者たる東京事務所所長が支出負担行為兼支出命令決議書により支出命令を発することになっていた(同規則七四条一項)。
4 東京事務所では、平成六年五月二六日から平成七年三月二九日までの間、別表1及び2記載の「支出先」において接遇を行い、その経費として、平成六年六月七日から平成七年四月二五日にかけて、平成六年度食糧費から合計一八五万四一〇五円を支出した。
5 原告らは、平成八年二月二二日、本件各支出につき、滋賀県監査委員に対し、地方自治法二四二条一項に基づく監査請求を行った。同監査委員は、同年四月二六日、別表1記載の各支出(以下「別表1の各支出」という。)については、監査請求期間を徒過しているとして不適法却下し、別表2記載の各支出(以下「別表2の各支出」という。)については、社会的儀礼の範囲を逸脱したものではなく、請求は理由がないので棄却する旨通知した。
三 本案前の主張(監査請求前置の要件充足)
平成六年六月七日から平成七年二月六日までの支出分合計七九万四二一七円(別表1の各支出)については、各支出日から一年以上経過した後に監査請求を行っているところ、右監査請求期間徒過につき地方自治法二四二条二項但書の「正当な理由」は認められるか。
【原告らの主張】
原告らは、平成七年九月一日から三回にわたって滋賀県公文書の公開等に関する条例による公開請求をし、右によって入手した資料等により初めて別表1の各支出を知ったのであり、最終の資料公開日である同年一一月二八日から八六日間経過後に監査請求しているのであるから、知ったときから相当期間内の監査請求といえ、監査請求期間徒過につき「正当な理由」がある。
【被告ら及び補助参加人の主張】
別表1の各支出は、平成六年度滋賀県一般会計予算に計上されていたものであり、また、請求書の書換えや関係書類の改ざん等関係者が支出を殊更隠蔽した事実はないから、相当な注意力をもって調査をすれば、別表1の各支出時にそれを知ることができたはずであり、監査請求期間徒過につき「正当な理由」はない。
仮に右が否定されても、平成七年六月二二日に平成五年度の東京事務所の食糧費支出に関して県議会で質疑がなされた時点か、同年七月二九日の全国市民オンブズマン連絡会議の時点、あるいは、そのころ新聞各紙によって全国の地方自治体の食糧費支出問題が報道された時点では、相当な注意力をもって調査をすれば、別表1の各支出を知ることができたのに、その時点から約六か月ないし八か月経過後に監査請求がさたものであって、やはり「正当な理由」があるとはいえない。
さらに、原告らが主張するように、関係資料の公開によって別表1の各支出を知ったとしても、原告らが監査請求理由として主張した内容に照らせば、公開後直ちに監査請求をなし得たはずであるのに、最終の資料公開日から概ね三か月も経過した後に監査請求がなされているのであって、「正当な理由」があるとはいえないことは明らかである。
四 本案の争点
1 本件各支出が、社会通念上儀礼の範囲内にとどまるものか否か
【原告らの主張】
社会通念上儀礼の範囲にとどまる食糧費支出までを否定するわけではないが、少なくとも、①一人当たり単価が六〇〇〇円を超える支出、②二次会にかかる支出、③県職員が相手方出席者である支出、④相手方出席者及び支出理由が不明な支出に関しては、いずれも儀礼の範囲を超えるものであり、違法な支出である。
【被告ら及び補助参加人の主張】
東京事務所において、関係機関に対する食糧費支出を伴う接遇の必要性・有用性が存在していたことは明らかで、本件各支出は、協議内容の重要性や緊迫性、相手方の地位・立場、東京における物価状況を勘案して支出された儀礼の範囲内のものであるから、一見明白に常軌を逸した額の支出があるとか不正支出がある等特段の事情があれば格別、そのような事情が認められない本件においては、当不当の批判は別として、違法の問題は生じない。
2 被告井ノ口の責任
【原告らの主張】
本件各支出が関係機関を接遇する上で必要であったとしても、社会的儀礼の範囲を超えていることは明らかであるから、これを認識し、支出を指示・決裁した被告井ノ口には、故意が認められるし、ほとんどの接待に同席していた以上、違法性を認識し得たはずであるから、少なくとも重過失は認められる。
【被告ら及び補助参加人の主張】
関係機関に対する接遇は、東京事務所の業務遂行に必要なものとして、長年にわたって継続的に行われてきたもので、当時の状況や時代背景を前提に判断すると、被告井ノ口に本件各支出が儀礼の範囲を超えた違法なものであるとの認識がないのはもちろん、違法であるとの判断を要求することもできないから重過失も認められない。
3 被告稲葉の責任
【原告らの主張】
被告稲葉は、知事として独自に本件各支出の適法性を判断する義務があるし、違法な本件各支出の内容、目的を知っていたか、容易に知り得たのであるから、過失があることは明白である。
【被告ら及び補助参加人の主張】
本件各支出は、法令による手続きを経て適正に行われたものであって、監査委員による審査や議会における審議の際にも何ら問題とされることはなかった。したがって、被告稲葉において、被告井ノ口の本件各支出が違法であることを知り、または、これを容易に知り得たとはいえず、当該行為を阻止すべき指揮監督上の義務違反はない。
第三 証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 判断
一 本案前の主張(監査請求前置の要件充足)について
1 地方自治法二四二条二項本文は、普通地方公共団体の長その他財務会計職員の財務会計上の行為について、当該行為が違法・不当であるとして監査請求できるのは、当該行為のあった日又は終わった日から一年以内である旨規定している。右規定は、たとえ違法・不当な財務会計上の行為であったとしても、普通地方公共団体の機関や職員の行為であるから、いつまでも住民が争い得る状態のままにしておくのは、法的安定性を損ない好ましくないとの趣旨に基づくものである。しかしながら、当該行為が住民に秘密裡になされ、一年を経過してから明らかになった場合等にまで、右趣旨を貫徹することは妥当ではない。そこで、同項但書は、「正当な理由」があれば、当該行為があった日又は終わった日から一年を経過した後でも監査請求ができる旨の例外規定を設けたのである。とすれば、当該行為が秘密裡になされた場合、同項但書にいう「正当の理由」の有無は、特段の事情がない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為の存在を知り得たかどうか、また、当該行為を知り得たと解される時点から監査請求をするのに必要と認められる相当期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものというべきである。
2 右を本件にあてはめてみると、別表1の各支出を含む本件各支出は、いずれも平成六年度滋賀県一般会計予算に計上されており、各支出自体も殊更秘匿されていたものではない。また、関係書類への虚偽記載や改ざん等が行われたという事実も見当たらない(以上の事実は当事者間に争いがない)。
右事実を前提とすると、別表1の各支出については、そもそも当該行為が秘密裡になされたものとは解されない。
したがって、別表1の各支出につき、監査請求期間を徒過したことに「正当な理由」はないというべきであって、この点に関する原告らの主張は採用できず、右支出にかかる請求は、不適法なものとして却下を免れない。
もっとも、この点、原告らは、関係資料公開の結果によってしか別表1の各支出を知り得なかったとして、「正当な理由」があった旨主張する。確かに、予算の議決や決算の認定手続きに際し、別表1の各支出を含む本件各支出の個々具体的な内容が明らかにされていたわけではない。しかしながら、いわゆる接待のために支出される「食糧費」の存在自体、本件各支出当時以前から国民の間で問題視されていたことに照らせば、手続上、個々の支出の具体的内容が明らかにされていなかったという事実のみをもって、別表1の各支出が秘密裡になされたと認めることはできない。また、仮に別表1の各支出の秘密裡性が認められたとしても、原告らの行った本件監査請求の理由(乙六八)に照らすと、公開を受けた資料さえあれば直ちに監査請求をすることが可能であるにもかかわらず、最終の資料公開日から八六日もの期間経過後にはじめて本件監査請求が行われているのであって、監査請求をするのに必要と認められる相当期間内の監査請求であったと評価することができない。したがって、原告らの右主張は採用できない。
二 本案の争点1(別表2の各支出の違法性)について
1 地方公共団体の長又はその他の執行機関が、当該地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、当該地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして許容されるというべきであり、その場合、いかなる程度の接遇を行うかは、右接遇に要する経費の支出権限を有する者の裁量に委ねられていると解すべきである。しかしながら、公的存在である地方公共団体により行われる接遇である以上、たとえ対外的折衝等をする際に行われたものであっても、それが社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、右接遇は当該地方公共団体の事務に随伴するものとはいえず、その経費を公金により支出することは許されないというべきである。そして、右接遇の経費が「食糧費」から支出される場合、行政事務執行上の直接的必要性から消費される経費として位置づけられる食糧費の性質からすれば、右接遇が当該地方公共団体の行政事務を執行する上で直接必要なものでなければならないことはいうまでもなく、また、公金の支出である以上、地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項の規定に則り、接遇の相手方や出席人数、接遇の場所、接遇の内容や費用等を総合考慮した場合に必要最小限と評価し得る支出でなければ、社会通念上儀礼の範囲にとどまるものとはいえず、右範囲を超えた支出をすることは裁量権の逸脱・濫用にあたり、違法と評価されるというべきである。
2 別表2の各支出(全二二件)については、以下の事実が認められる。
(一) 個々の支出につき、いつ、いかなる場所で接遇を行い、いくら支出したかは別表2記載のとおり(なお、支出先がマイカルイストである別表2の番号12、19、25の三件の接遇場所は料理店であり、その他の接遇場所はいずれもクラブである。)であって、右事実は当事者間に争いがない。
(二) 滋賀県行政組織規則(昭和五一年滋賀県規則第一六号)によると、東京事務所の主たる業務は、中央官庁・国会等との連絡折衝に関する事項、中央における各種情報の収集及びこれに伴う連絡調整に関する事項であり、右情報の収集活動として、関係機関に対する接遇を行ってきたことが認められる(乙一、乙六九、弁論の全趣旨)。
(三) 個々の支出の具体的な接遇の趣旨あるいは目的が何であったか、相手方出席者が誰であったかは二二件全てについて不明ないし特定できず、また、出席人数の不明なものが二二件中一四件(別表2の番号8、9、11、12、14、15、17ないし20、24ないし26、28)、東京事務所側から誰が出席したかすら不明なものが二二件中一〇件(同8、10、12、14、16ないし18、24、28、29)ある(乙四五の一ないし乙六〇の二、乙六九、弁論の全趣旨)。
(四) 東京事務所における食糧費支出の手続き自体は前記第二の二(当事者間に争いのない事実)3記載のとおりであるが、個々の支出に関し、接遇の相手方や出席人数、接遇の目的等を書類に残すという方法は採っていなかった(乙六九)。
3(一) ところで、本件のようないわゆる公金支出返還を求める住民訴訟において、右公金支出の違法性を基礎づける事実の主張立証責任は原告側にある。しかしながら、前記のような本件事実関係の下では、違法性判断のための前提事実のうち不明部分があまりにも多く、各支出が行政事務執行上直接必要なものであり、社会通念上儀礼の範囲にとどまるものか否かを判断し得ないことになってしまう。そして、公金支出返還訴訟においては、実際上、その違法性の有無を判断し得る資料を所持しているのは被告側であり、右資料の作成が被告側においてのみ可能であることに鑑みると、違法性の判断に重要な点について、被告側があえて資料作成を行わなかったがために、これが不明となっているような場合にまで、違法性の有無を判断し得るだけの資料の提出がないことをもって、違法性の主張立証がないとして、原告の請求を棄却するのは相当でない。むしろ、明確に主張立証がなされた事実関係に照らして、なお当該支出行為が違法と判断される可能性が十分認められれば、右支出の違法性に関する主張立証は一応充足されており、特段の事情のない限り、支出の違法性が推認されると解するのが相当である。
(二) そこで、本件についてみると、別表2の各支出は、接遇の場所がいわゆるクラブであるものが二二件中一九件(別表2の番号8ないし11、13ないし18、20ないし24、26ないし29)あるところ、一般的にクラブといわれる所は、専ら遊興のための場所という性質が色濃い場であり、行政事務執行上直接必要な接遇を行う場所としておよそふさわしい場所とはいえず、また、右二二件の支出はいずれも相当高額であって、特にクラブで接遇を行ったり、高額な支出を伴う接遇を行う必要性や合理性が存在する等特段の事情がない限り、各支出が違法と判断される可能性は十分にあるというべきである。
他方、個々の支出毎の接遇の相手方や出席人数、接遇の目的等は、各支出の違法性判断に極めて重要な事項というべきところ、被告側において、これを記録しておくことはいとも簡単であり、かつ、地方公共団体が公金を支出する以上、適正な支出であることを対外的にも対内的にも明確にし得るようにするため、きちんと書類を作成しておくのが一般的な処理方法であると考えられる。そうであるにもかかわらず、東京事務所においてそのような方法を採らなかったということは、接遇の相手方等が公にならないよう、あえて書類に記録しなかったと認めるほかない。
4 以上に認定判断した事情によれば、本件においては、別表2の各支出は、その違法性が推認される一方、被告は、それが行政事務執行上直接必要なものであり、社会通念上儀礼の範囲にとどまるものであることを具体的に立証できておらず、また、特にクラブで接遇を行う必要性なり合理性があることも立証できていないのであって、右推認を左右するに足りる事情は認められないというべきである。したがって、別表2の各支出については、原告らのその余の主張(一人当たり単価が六〇〇〇円を超えるかどうか、二次会にかかる支出かどうか、県職員が相手方出席者かどうか)について検討するまでもなく、違法な支出であると認められる。
三 本案の争点2(被告井ノ口の責任)について
東京事務所においては、毎月一定回数以上の食糧費支出を伴う接遇を行っており、随時執行する必要性があったことから、年度初めに年間執行伺いをし、個々の支出に際しては、支出負担行為兼支出命令決議書により専決権者たる被告井ノ口が決裁していたことは、前記第二の二項(当事者間に争いのない事実)の3記載のとおりである。とすれば、被告井ノ口は、別表2の各支出の違法性、すなわち、個々の接遇毎に具体的に相手方出席者や接遇目的等が明確になるような書類が作成されていなかったことや接遇場所としてクラブが利用されていたことなどを認識していたか、少なくともわずかな注意を払えばそのことを認識し得たにもかかわらず、漫然と支出命令を発していたと認められる。
したがって、被告井ノ口には、違法な別表2の各支出によって、滋賀県が被った損害を賠償する責任があると認められる。
四 本案の争点3(被告稲葉の責任)について
被告稲葉は、専決をさせた者であるから、被告井ノ口の財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右違法行為を阻止しなかったときに限り、賠償責任を負うものと解すべきである。
そこで、被告稲葉に右指揮監督上の注意義務違反があったかについて検討するに、食糧費の執行が日常的なものであることに照らすと、特段の事情がない限り、被告稲葉が個々の支出の適否について格段の注意を払うことは期待し難いところ、別表2の各支出は、通常の予算執行と同様、法令による手続きを経て行われ、その間何ら問題視されることはなかったと認められる。以上からすると、被告稲葉において、被告井ノ口に対する指揮監督を怠り、故意又は過失により被告井ノ口の違法な別表2の各支出を阻止しなかったとは認められない。また、およそ食糧費支出を伴う関係機関に対する接遇が許されないものではなく、社会通念上儀礼の範囲を超えたものだけが許容されないと解される以上、被告稲葉が、東京事務所における関係機関接遇の事実を抽象的に認識していたとしても、別表2の各支出の具体的な違法性を知り、あるいは、容易に知り得たと認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告稲葉に対する原告らの請求は理由がない。
五 以上によれば、原告らの本件請求中、別紙1の各支出にかかる部分については不適法な訴えであるからこれを却下し、別紙2の各支出にかかる部分のうち、被告井ノ口に対する請求は理由があるからこれを認容し、被告稲葉に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
なお、仮執行の宣言は相当でないからその申立てを却下することとする。
(裁判長裁判官鏑木重明 裁判官末永雅之 裁判官武部知子)